衛星開発ゼミ

WEEK 8 / 事前学習 最終回

プロジェクトマネジメント

テーマあらゆる領域の判断に根拠を持たせ、プロジェクトを前に進め続ける
目的①マネジメントの判断も、技術判断と同じく根拠で決める軸を持つ
目的②依存をほどく道具を持ち帰り、直後の作業期間の計画づくりで使う

アストロキャンプ2026 / 衛星開発ゼミ

0.1 前回までと今回の位置づけ

講義は今日で終わり、直後からチームの作業期間に入る

WEEK 6 宇宙開発と
システムズエンジニアリング
WEEK 7 | 前回 ソフトウェア
エンジニアリング
WEEK 8 | 今日・講義最終回 プロジェクトマネジメント 依存を描く PERT 図とマージン。
コードを書く前のインターフェース定義
以降 作業期間・チーム開発、
そして合宿へ
Week 8|プロジェクトマネジメント1

1

プロジェクトマネジメントとは何か

標準の定義を読み替えると判断の元手に行き着き、その元手が有限であることからトレードオフが生まれ、その正体は依存関係だと分かる。

1.1 標準の定義

PMIによるプロジェクトマネジメントの定義

プロジェクトの要求事項を満たすために、知識・スキル・ツール・技法をプロジェクト活動へ適用すること。

PMI(Project Management Institute)によるプロジェクトマネジメントの定義。PMI は標準体系 PMBOK ガイド(Project Management Body of Knowledge、現行第8版)をまとめた団体出典:PMI, “What Is Project Management?”

つまりどういうこと?

Week 8|プロジェクトマネジメント1

1.2 定義の読み替え

マネジメントとは、​​​
あらゆる​​​領域の​​​判断に​​​根拠を​​​持たせ、​​​前に​​​進め続ける​​​ことである

標準の定義(PMBOK ガイド 第8版)

プロジェクトの要求事項を満たすために、知識・スキル・ツール・技法をプロジェクト活動に適用すること

本ゼミの言葉への読み替え
要求事項を満たすために要求から根拠をつなげる
プロジェクト活動にあらゆる領域に
適用すること適用するときに根拠を持つ
あらゆる領域の判断に根拠を持たせ、プロジェクトを前に進め続けること
Week 8|プロジェクトマネジメント1

1.3 プロジェクト資源

判断の元手、プロジェクト資源(人・時間・予算)は後から増やせない

では、その判断は何に対して行うのか。

4 チーム編成は固定
時間 4泊5日+事前学習 合宿の日程は固定
予算 機材は支給 機材は運営が用意し、追加購入はない
判断=有限の資源をどこに配るか(配る先の判断 + 配り方の判断)
Week 8|プロジェクトマネジメント1

1.4 トレードオフ

同じ​​​元手を​​​取り合うから、
​​スコープ・時間・コストは​​​同時には​​​立てられない

スコープ 時間 コスト 1つを動かせば、他が動く 品質を加えて示すこともある
トレードオフは、資源が有限であることの帰結。同じ人の時間、同じ日程、同じ機材という有限の元手を取り合うから生じる
代表例が三重制約(スコープ・時間・コスト)。1つを動かせば他が動く。品質を加えて4軸で示すこともある
製造業では QCD(品質・コスト・納期)という考え方がよく使われる。
Week 8|プロジェクトマネジメント1

1.5 トレードオフの正体

トレードオフは見え方で、実際の構造は依存関係

トレードオフとしての見え方 やりたいこと A やりたいこと B

両立できないように見える

その中身は
実際の依存関係 やりたいこと A やりたいこと B 同じリソース

依存関係があるから競合してトレードオフが生まれる

トレードオフを判断するために、まずその仕組となる依存関係を知る。 依存関係を解きほぐし、まず最適解を考え、どうしても両立できないものはトレードオフを考える。
Week 8|プロジェクトマネジメント1

1.6 削る前に問うこと

まず依存を解き、次にリスクに備え、それでも足りないときに選ぶ

依存関係を解きほぐす 待ちをなくし、同じ人数と日数で進む量を増やす 2章
リスクに備える 見積もりの外れと前提の崩れから、手戻りと停止を減らす 3章
最後に選ぶ 何を諾めて何を守るか、結局目的は何か、
その基準はサクセスクライテリア。
Week 6
①②で最適解を探し、それでも両立しないものだけを③で判断する
Week 8|プロジェクトマネジメント1

1.7 選ぶときの基準

動かせるのはスコープだけ ── その軸は Week 6 の3段階で刻んである

コスト=主に人/4人で固定機材は運営が支給時間=合宿の日程で固定動かせるのはスコープだけ
EXTRA
追従・連続運用
移動する目標への追従など、フルの上の発展目標。定義は各チーム
FULL
制御+撮影+画像送信
姿勢を制御して対象を撮影し、画像を送る(要求の達成)
MINIMUM
姿勢推定+テレメトリ
地上から状態が見える=全運用の最低条件
上位の段は、下位を包含する。フルはミニマムを含む。地上から状態が見えることが、あらゆる運用の最低条件(Week 6)
削る順序も、この入れ子が持つ。遅れたら外側の段から諦め、範囲を内側へ絞る(デスコープ。型は Week 6 のまま)
Week 8|プロジェクトマネジメント1

1.8 参考:PMBOK の全体像と今日の通り道

7つのドメインは並行して走り続け、本回はその中を順番に通っていく

PMBOK 第8版の7つのパフォーマンス・ドメイン / 並行して走り続ける

ガバナンス扱わない
スコープ正面から扱う
スケジュール正面から扱う
ファイナンス扱わない
ステークホルダー扱わない
資源割り当てだけ
リスク正面から扱う
割り当ての判断は②へ統合 スコープ スケジュール リスク

横=並行して管理し続けるドメイン、重ねた①②③=本回で決めていく順番。独自の分類は立てず、標準の区分の上に通り道を描いている

Week 8|プロジェクトマネジメント1

1.9 この章のまとめ

ここは覚えて次へ:判断・有限の資源・トレードオフの正体

実際の活動=判断に根拠を持たせ、前に進め続けること。元手のプロジェクト資源(人・時間・予算)は有限で、判断は配る先+配り方の両方。

トレードオフの正体は、依存の構造にある。ほぐせば消える対立と、外から固定されて残る本物の制約を見分ける。

削るのは最後の手段。まず依存を解き、次にリスクに備え、それでも足りないときに削る。

Week 8|プロジェクトマネジメント1

2

依存

今日の中心。まず依存を読み、そのうえで2つの手でほどく。

前半依存を読む線で描き、最長経路を読み、何からやるかを決める
後半依存をほどく2つの手内部事情を切り離す・輪を切る

2.1 密結合の3つの難しさ

密結合の難しさは、数・内部事情・堂々巡りの3つが重なっている

姿勢制御 通信 電源 カメラ 地上局

 絡む相手が多い。サブシステムの数だけ依存の相手がいる

姿勢制御 自分の担当 センサ読み取り 換算・フィルタ の実装 入出力の合意(表層) 実装の中身まで

 内部事情まで絡む。例:姿勢角を返す関数の入出力で済むはずが、換算・フィルタの実装まで待ってしまう

地上局 衛星 形式待ち 確認待ち

 依存が堂々巡りする。互いに相手の完成を待つ循環ができ、両方が止まる

Week 8|プロジェクトマネジメント1

2.2 堂々巡り(循環依存)

地上局と衛星は、互いに相手の完成を待って両方止まる

地上局受信・可視化・コマンド送信
「テレメトリ形式が決まらないと書けない」 完成待ち
完成待ち 「地上局がないと、送れているか確かめられない」
衛星テレメトリ送信・コマンド処理

互いの完成を待ち、両方が止まる。誰も怠けていないのに、何も進まない。

Week 8|プロジェクトマネジメント1

2.3 待ちが資源を捨てる

待ちは、人的資源を消費しながら何も生まない

Aさん
Bさん
Cさん
待ち(何も生まない)

待っている間も、Cさんの時間は消費され続ける。作業の失敗と違い、やり直しても何も残らない

待ちは有限の資源を最も大きく捨てる。作業の失敗はやり直せば成果が残るが、待ちは時間だけが消える
4人では、1人の詰まりが全体を止める。小さいチームほど、依存の1本が計画全体の首を絞める
マネジメントの本質は、タスクの依存関係をほどくことにある
Week 8|プロジェクトマネジメント1

2.4 順番と完了時期

同じ作業量でも、順番だけで完了が45分変わる

カレーライスとサラダを作る。工程はどちらも同じで、着手の順番だけを変える。

段取り① 米を研いで炊飯を始め、待つ間にカレーとサラダを作る 60分で完成
段取り② カレーを作り終えてから、米を研ぐ 105分で完成
作業量は1分も変わらない。着手の順番だけが、完了時期を決めている
Week 8|プロジェクトマネジメント1

2.5 依存を読む(PERT 図とクリティカルパス)

クリティカルパスは、手数最多のカレーではなく炊飯を含むご飯の鎖

米を研ぐ5分
炊飯50分(待ち)
野菜と肉を切る10分
炒める5分
煮込む20分(待ち)
ルーを入れて煮る10分
洗って切る10分
盛り付け5分
配膳5分 / 全品に依存
クリティカルパス:ご飯の鎖 55分 + 配膳 5分 = 60分 余裕あり:カレー 45分、サラダ 15分(約40分の余裕) 炊飯・煮込みは人手を拘束しない待ち。そこへサラダを差し込める
PERT 図依存関係を矢印で置いた図。実務ではこの呼び名で通じる
クリティカルパス線をたどった最長経路。合計時間が全体の完了時期を決める
余裕経路の外なら遅れても、全体は遅れない幅
Week 8|プロジェクトマネジメント1

2.6 ガントチャートとの対比

同じ食卓の計画でも、ガントチャートには依存の線が引かれない

ガントチャートで描く

ご飯カレーサラダ配膳 55分45分15分 020分40分60分 完成

いつ何をするかと進捗は見える。矢印がないので、炊飯が完了時期を決めていることは読めない。

PERT 図で描く

米 5 炊飯 50 切る 10 炒め 5 煮込 20 ルー 10 洗切 10 盛り 5 配膳 5 クリティカルパス 60分

依存の線と最長経路が見える。時間軸は持たないので、着手の時刻は別に決める。

全タスクがテレコマの完成に依存する自分たちの計画では、依存を描けない図は計画の最大の敵を映せない。

Week 8|プロジェクトマネジメント1

2.7 参考:PDM・CPM と本来の PERT

標準体系の呼び名は PDM と CPM、三点見積もりを載せた派生が本来の PERT

PDM
プレシデンス・ダイアグラム法。依存関係を四角と矢印で描く図法。実務の「PERT 図」の多くはこれ
CPM
クリティカルパス法。依存図から最長経路を求める手法
本来の PERT
Program Evaluation and Review Technique。依存図に三点見積もり(楽観・最頻・悲観)を載せた派生(3章で触れる)

ふだんの呼び名は「PERT 図」でよい。呼び名の違いで詰まる必要はない。

PDM で描いた依存図実務の「PERT 図」の多くはこれ
三点見積もり楽観・最頻・悲観(3章で触れる)
本来の PERT
Week 8|プロジェクトマネジメント1

2.8 参考:ノードの書き分け

ノードは作業で統一し、合流点だけをマイルストーンにする

タスクノードは動詞句で書く。所要時間と担当をノードに載せる。粒度は「1人が半日」。矢印は「前が終わらないと始められない」だけを表す
マイルストーンは合流点だけ。状態の名詞句、所要時間ゼロ。「カレー完成」「配膳の直前」のような数個のゲートに閉じ込める
2つの流儀を混ぜない。ノードを作業、矢印を順序にする流儀が AON(Activity on Node。2.7 の PDM がこの方式で、本デッキも AON)。矢印を作業、ノードを状態にする流儀が AOA(Activity on Arrow)。1枚の図の中で混在させない
タスク(動詞句・時間と担当) ルーを入れて煮る 10分 / Bさん サラダを盛り付ける 5分 / Cさん 全品そろった 0分 / 合流点 マイルストーン(状態・所要ゼロ)
迷ったときの判定 時間と担当が置ける → タスク / 「〜が動いている」という条件文になる → マイルストーン 各タスクに完了条件(何が観測できたら終わりか)を書けば、その条件がそのまま状態になる
Week 8|プロジェクトマネジメント1

2.9 参考:ほかのスケジュール管理の手法

スケジュール管理の道具は他にもある ─ 使いどころが違う

ガントチャート

タスクを時間軸上のバーで並べる図

大人数・長期の進捗共有に強い
依存関係が主役ではない。少人数・短期間では得るものが少ない

WBS

Work Breakdown Structure。成果物・作業を階層的に分解して網羅する図

抜け漏れの点検に強く、PERT 図のノードを書き出す下ごしらえになる
一度で分解し切るのは難しい。粗く始めて更新し続ける

マイルストーンチャート

節目(マイルストーン)だけを時間軸に打つ図

長期日程が一目で共有できる
途中の作業量や依存は見えない。少人数・短期間では得るものが少ない

カンバン

「未着手・作業中・完了」の列でタスク札を動かす板

いま誰が何をしているかが見える
完了時期の見通しは示さない

Week 8|プロジェクトマネジメント1

2.10 何からやるか

数十のタスクを4人で回すとき、どれから手を付けるか?

難しそうなものから重いものを先に片づけておく
得意なものから手が動くところから進める
締め切りが近いものから期日の順に並べて消化する

作業量は同じでも、順番で完了時期は変わる。では、何を根拠に順番を決めるか。

Week 8|プロジェクトマネジメント1

2.11 優先度の3つの型

「何からやるか」は、クリティカルパス・リスクの高さ・依存の根元で決める

クリティカルパス上を優先する経路上の1日の遅れは、全体の1日の遅れになる。経路の外には余裕がある
リスクの高いものを先に潰す外れが早く分かれば、作り直す時間が残っている。終盤の発覚には打つ手がない
依存の根元を先に固める根元が動くと、下流の作業がまとめて作り直しになる。テレコマの形式がこの位置

3つとも、依存の構造とリスクから順番の根拠を取っている。難しさや得意さは、順番の根拠にならない。

Week 8|プロジェクトマネジメント1

2.12 ほどく2つの手

読めた依存を、2つの手でほどく

手① 内部事情を切り離す インターフェースを先に決め、境界で作業を分割する
手② 輪を切る 堂々巡りの1つを仮に決め打ちして、輪を切る
Week 8|プロジェクトマネジメント1

2.13 手① 内部事情を切り離す

コードを書く前にインターフェースを定義し、境界で作業を分割する

衛星側の実装内側は自由に作り、差し替えられる
合意したインターフェース依存を、内部事情から表層の合意へ縮める
地上局側の実装合意だけを見て、独立に進む

パケットフォーマットの合意に最低限含めるもの (行の中身は例。何を載せるかはチームの設計判断)

項目名
型とサイズ
単位
送信周期
attitude_angle
int16(2 byte)
0.01 deg
1 Hz
…(項目ごとに1行ずつ、チームで合意する)

Week 7 の「呼ぶ側を変えずに中身を差し替えられる」を、コードの層からチームの層へ持ち上げた操作。契約まで固めることは、要求と制約を人にもAIにも渡せる形にする作業でもある。

一度決めて終わりではない。合意は必ず変わる。定義の正本をどこに置き、変えたときにどう周知して切り替えるかを、あらかじめチームで決める(置き場所と手順の中身は各チームの設計判断)
Week 8|プロジェクトマネジメント1

2.14 手② 輪を切る

輪の中の1つを仮に決め打ちすれば、両側が同時に動き出す

堂々巡りのまま 地上局 衛星 形式が決まらない 届いているか確かめられない 互いに相手が決まるのを待って、両方が止まる
いったん決め打ち
輪が切れる 地上局 衛星 形式を仮に決め打ち 仮に決めた形式を前提に、両側が同時に動き出す
決め打ちだと明示する決めた中身と一緒に「これは仮」であることを共有する
決め直す時期を決めるいつ、何が分かった時点で見直すかを、決め打ちと同時に置く
外しても戻しやすい側を選ぶ崩れたときに影響が小さいところで切る

決め打ちを動かす道具が、ダミーデータとモック(Week 7)。実物ができたら差し替える。あわせて、依存の向きは一方向に揃え、最小の経路を先に1本通してから太らせる。

Week 8|プロジェクトマネジメント1

2.15 Conway の法則

担当を分けた線が、そのままシステムの分かれ目になる

Aさん地上局の担当
Bさんフライトソフトの担当
Cさん姿勢制御の担当
地上局受信・可視化・コマンド
フライトソフトテレメトリ・コマンド処理
姿勢制御モジュール推定・制御
上:チームの分担 下:できあがるシステム構造分担の境界 = モジュールの境界 = インターフェース

システムを設計する組織は、その組織のコミュニケーション構造を写した構造の設計を生む(Conway, 1968)。

Week 8|プロジェクトマネジメント1

2.16 逆コンウェイ

誰に割り当てるかと、どこで依存を切るかは、1つの判断である

逆コンウェイ:分担を先に設計する。望むアーキテクチャに合わせて、先に担当の分け方を決める
手①と同じ操作である。インターフェースを先に決めて境界で分割することと、分担を決めることは、同じ1つの判断の両面
分担の見直しは、設計変更でもある。担当を組み替えるときは、切り直されるインターフェースも一緒に見直す
地上局
フライトソフト
姿勢制御
逆コンウェイ:望む構造に合わせて分担を決める
Aさん
Bさん
Cさん

上:望むシステム構造 下:そこから導く分担(2.15 の逆向き)

Week 8|プロジェクトマネジメント1

2.17 この章のまとめ

ここは覚えて次へ:依存を読む道具と、ほどく2つの手

待ちが資源を最も大きく捨てる。マネジメントの本質はタスクの依存関係をほどくこと。

クリティカルパスが完了時期を決める。「何からやるか」は、経路上・リスクの高さ・依存の根元で決める。

ほどく手は2つ。切り離し(インターフェース)・輪を切る(決め打ち)。可視化(PERT 図)は、ほどく前に依存を読む道具。

分担の線がシステムの分かれ目になる。割り当てと、どこで依存を切るかは1つの判断。

Week 8|プロジェクトマネジメント1

3

リスクに備える

依存をほどいても、見積もりは外れる。手戻りと停止に先に手を打ち、残量を見張る。

3.1 不確実性とリスク

不確実性のうち名指しできるものがリスク、名指しできない残りには使い道を決めない資源で備える

不確実性(上位の語)

リスク=名指しできるもの

洗い出して評価し、対応を作れる事象

残り=名指しできない外れ → 使い道を決めない資源で備える

名指しできたリスクには、対応を作る。避ける・減らす・移す・受け入れるの4つから選ぶ
名指しできない残りには、使い道を決めない資源を残す。洗い出しは尽きず、名指しできたリスクの見積もりそのものも外れる
Week 8|プロジェクトマネジメント1

3.2 リスクマネジメントの3段階

リスクは、洗い出して、起こりやすさと影響で評価して、対応を決める

段階1洗い出す何が起きたら計画が止まるかを挙げる
段階2評価する起こりやすさと影響の大きさで見る
段階3対応を決める4つの型から選ぶ(次のスライド)

Week 6 で技術的な壊れ方(故障モード)に当てたこの形を、計画・スケジュール・資源へ当てる。例は、電池が想定より持たない、部品が壊れる、メンバーが1日離脱する。

Week 8|プロジェクトマネジメント1

3.3 対応の4つの型

対応の型は、避ける・減らす・移す・受け入れるの4つ

避けるそのやり方を採らない。間に合わない見込みの部品を使わない設計に変える
減らす起こりやすさか影響を小さくする。最小の経路を先に1本通しておく
移す負う先を変える。実務では保険や外注、合宿では運営が用意する予備機材
受け入れる起きたら対処すると決め、備えだけ置く。マージンがこれに当たる

備えないという判断も、根拠を言えるなら判断である。起こりやすさも影響も小さいものに資源を割くほうが、配り方としては下手になる。

Week 8|プロジェクトマネジメント1

3.4 マージン

プロジェクト資源の一部は、使い道を決めずに残す ── これがマージン

割り当て済みの資源(使い道が決まっている)
マージン

使い道が決まっていないことが機能。どんな外れ方にも充てられる

スケジュール予備見積もりの外れに備えて、予定を詰め切らず時間を残す
リソースバジェットの余裕電力・通信・メモリの収支に余裕を明示的に載せる。ぴったりの収支は少しの外れで破綻する

マージンは怠慢ではなく、有限の資源の配分に関する意思決定である。

Week 8|プロジェクトマネジメント1

3.5 参考:三点見積もり

楽観・最頻・悲観の3点で、見積もりを幅として扱う

楽観値
15
うまくいけば
最頻値
20
たいてい
悲観値
30
火の通りが悪ければ

カレーの煮込み(2.5 の例)を1点の20分ではなく、15〜30分の幅で扱う。この3点を PERT 図に載せた派生が、本来の PERT(2.7)。

Week 8|プロジェクトマネジメント1

3.6 計画の窓

計画の窓は、マージンの残量とクリティカルパスの進み具合

運用の窓(Week 6)

運用中、衛星の中は覗けない。テレメトリだけが観測の窓。

計画の窓(今日)

計画のズレは、マージンの残量とクリティカルパス上の進み具合に現れる。

マージンを使い切って遅れたら、何を削るかはデスコープの階段(Week 6)が持っている。残量の観測は、その判断を起動する材料。
Week 8|プロジェクトマネジメント1

3.7 スナップショット

計画を更新する前に、前の版をスナップショットとして残す

当初計画作業期間で描いた PERT 図
更新の前に記録ホワイトボードなら、更新前に写真を1枚撮るだけでよい
更新後の計画合宿では必ず更新される
当初計画と実績の差が、Day 5 の素材になる。どこが外れ、そのときどう決め直したか。差分が残っていなければ、時間の使い方の意図を語れない
Week 8|プロジェクトマネジメント1

3.8 決め直しの輪

残量を見て決め直したら、また依存とリスクの取りこぼしへ戻る

取りこぼしを潰す依存をほどく(2章)、リスクに手を打つ(3章前半)
使い道を決めない資源を残すマージンを置く(3.4)
残量と進み具合を見張るマージンの残量と、クリティカルパス上の進み(3.6)
ズレたら決め直す足りなければスコープを削る(デスコープの型は Week 6)
1.6「削る前に問うこと」へ戻る
この輪が回り続けることが、1.2 で置いた定義「あらゆる領域の判断に根拠を持たせ、プロジェクトを前に進め続けること」の中身である。
Week 8|プロジェクトマネジメント1

3.9 計画の立て方

直前の輪をどれだけ粗く回すかを決めることが、計画の立て方そのものである

予測型全体を先に計画し、その計画を基準に進める。全体像が比較的よく見えている場合に向く。
適応型(アジャイル)粗く計画し、短い反復の中で学びながら頻繁に決め直す。やってみて初めて分かることが多い場合に向く。
ハイブリッド対象や部分によって、予測型と適応型を組み合わせる。

どれを採るかは、全体像がどれだけ見えているかで決まる設計判断。本ゼミでは適応型を中心に、固定された日程や合流点には予測型の考え方も使う。どの部分を固定し、どの部分を反復するかも設計判断で、ダブルダイヤモンドを繰り返す形(4.2)と同じ向き。

1周目 2周目 3周目 start さらに次へ 設計 開発 試験 運用
適応型の一周(Week 6 の図の再掲):設計→開発→試験→運用を小さく一周し、周ごとに育てる
Week 8|プロジェクトマネジメント1

3.10 この章のまとめ

ここは覚えて次へ:名指しできるリスクへの手と、名指しできない残りへの備え

名指しできるリスクは、洗い出して評価して対応を決める。対応の型は、避ける・減らす・移す・受け入れるの4つ。

名指しできない残りには、使い道を決めない資源を残す。これがマージン。使い道が決まっていないことが機能。

マージンは、残量を見張って初めて機能する。計画の窓はマージンの残量とクリティカルパス上の進み具合。更新前の計画はスナップショットとして残す。

決め直したら、また取りこぼしを潰す段へ戻る。この輪が回り続けることが「前に進め続ける」の中身。

Week 8|プロジェクトマネジメント1

まとめ

今日の核:判断に根拠を持たせ、順番を守って、前に進め続ける

判断に根拠を持たせ、前に進め続ける。元手のプロジェクト資源(人・時間・予算)は有限で、判断は配る先+配り方。

トレードオフの正体は、依存の構造にある。ほぐせば消える対立と、外から固定されて残る本物の制約を見分ける。

削る前に、取りこぼしを潰す。依存は PERT 図で読み、インターフェースとダミーの2つの手でほどく。

リスクは名指しして対応を作り、残りはマージンで備える。残量を見張り、更新前の計画はスナップショットとして残して決め直す。決め直したら取りこぼしへ戻り、この輪が回り続けることが「前に進め続ける」の中身。

Week 8|プロジェクトマネジメント1

宿題

Week 6 からの通し課題を、「どう進めるか」の観点で考え直す

通し課題(Week 6 から)

模擬衛星の初回打ち上げに必要な機能を考える

第3稿:今日が足す観点

お題は Week 6 と同じで、今日はどう進めるか(依存と計画)

Week 6 SE|初回に必要な機能は何か
Week 7 SWE|どう作り、どこで検証するか
Week 8 PM|どう進めるか(依存と計画)
何からやるか依存とクリティカルパスから、作る順序を決める
どこで依存を切るかインターフェースを先に決める位置を選ぶ
どこにマージンを置くか外れる前提で、置き場所を決める
完了条件:作る順序・依存を切る位置・マージンの置き場所を、それぞれ何を根拠に決めたかを言えること。実装は課さない。提出は作業期間の最初のチーム作業の前で、各自の案を持ち寄る。所要は60分を目安に
Week 8|プロジェクトマネジメント1

4

参考:共通講義のまとめ

宿題や今後の作業期間で必要なスタンス

4.1 AIとの協働モデル

AIとの協働は、検問ではなく共同のエンジニアリングである

×検問

AIの出力(高速・大量) 人間が1件ずつ審査 量で破綻する 見逃し

「毎回チェック」は量で破綻し、「全部信じる」は判断の明け渡し。審査の根拠は設計されていない。

共同のエンジニアリング

AI+人間で回す 問い 発散 収束 根拠ある 結論 広げるのも、確かめるのも、AIに任せてよい

人間が要求と契約(テスト・インターフェース)を固め、内側を委任する。人間の役割は「広げたか、何で確かめたか」を説明できること。

Week 8|プロジェクトマネジメント1

4.2 ダブルダイヤモンド

開発は、発散と収束を2回繰り返す形で進む

選択肢・情報量の多さ 思考プロセスの進行 → 課題の洗い出し 課題の絞り込み 解決策の洗い出し 解決策の絞り込み 課題 問題の定義 決定 課題の探求 解決策の探求 発散=選択肢を広げる 収束=根拠を持って絞る

この形を1周で終えず繰り返す。作業期間の計画づくりが、このループの設計をAIと対等に分担する最初の実践になる。

Week 8|プロジェクトマネジメント1

付録 出典

参考文献と図版の出所

Project Management Institute(PMI)『PMBOK(Project Management Body of Knowledge)ガイド』第8版 ── プロジェクトマネジメントの定義、パフォーマンス・ドメイン、三重制約、PDM・CPM・三点見積もりの用語
Melvin E. Conway, “How Do Committees Invent?”, Datamation, 1968 ── Conway の法則(2.15)
Matthew Skelton, Manuel Pais, “Team Topologies”, IT Revolution Press, 2019 ── チームタイプとインタラクションモード(2.15 の台本で名前のみ紹介)
Design Council, “Framework for Innovation”(ダブルダイヤモンド、4.2)── 本ゼミでの位置づけの正典はゼミ設計資料 concepts.md
図版はすべて本資料内で作図(デジタル庁ダッシュボードデザイン実践ガイドブック準拠のデザインシステムを使用)。写真・ネット取得画像は使用していない
Week 8|プロジェクトマネジメント1