Week 8 プロジェクトマネジメント
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Title
衛星開発ゼミ WEEK 8 / 事前学習 最終回 プロジェクトマネジメント テーマ あらゆる領域の判断に根拠を持たせ、プロジェクトを前に進め続ける 目的① マネジメントの判断も、技術判断と同じく根拠で決める軸を持つ 目的② 依存をほどく道具を持ち帰り、直後の作業期間の計画づくりで使う アストロキャンプ2026 / 衛星開発ゼミ
0.1 前回までと今回の位置づけ
0.1 前回までと今回の位置づけ 講義は今日で終わり、直後からチームの作業期間に入る WEEK 6 宇宙開発と システムズエンジニアリング WEEK 7 | 前回 ソフトウェア エンジニアリング WEEK 8 | 今日・講義最終回 プロジェクトマネジメント 依存を描く PERT 図とマージン。 コードを書く前のインターフェース定義 以降 作業期間・チーム開発、 そして合宿へ Week 8|プロジェクトマネジメント 1
1. プロジェクトマネジメントとは何か
1 プロジェクトマネジメントとは何か 標準の定義を読み替えると判断の元手に行き着き、その元手が有限であることからトレードオフが生まれ、その正体は依存関係だと分かる。
1.1 標準の定義
1.1 標準の定義 PMIによるプロジェクトマネジメントの定義 プロジェクトの要求事項を満たすために、知識・スキル・ツール・技法をプロジェクト活動へ適用すること。 PMI(Project Management Institute)によるプロジェクトマネジメントの定義。PMI は標準体系 PMBOK ガイド(Project Management Body of Knowledge、現行第8版)をまとめた団体 出典:PMI, “What Is Project Management?” つまりどういうこと? Week 8|プロジェクトマネジメント 1
1.2 定義の読み替え
1.2 定義の読み替え マネジメントとは、 あらゆる領域の判断に根拠を持たせ、前に進め続けることである 標準の定義(PMBOK ガイド 第8版) プロジェクトの 要求事項を満たすために 、知識・スキル・ツール・技法を プロジェクト活動に 適用すること 。 本ゼミの言葉への読み替え 要求事項を満たすために 要求から根拠をつなげる プロジェクト活動に あらゆる領域に 適用すること 適用するときに根拠を持つ あらゆる領域の判断に根拠を持たせ、プロジェクトを前に進め続けること Week 8|プロジェクトマネジメント 1
1.3 プロジェクト資源
1.3 プロジェクト資源 判断の元手、プロジェクト資源(人・時間・予算)は後から増やせない では、その判断は何に対して行うのか。 人 4 人 チーム編成は固定 時間 4泊5日 +事前学習 合宿の日程は固定 予算 機材は支給 機材は運営が用意し、追加購入はない 判断=有限の資源をどこに配るか(配る先の判断 + 配り方の判断) Week 8|プロジェクトマネジメント 1
1.4 トレードオフ
1.4 トレードオフ 同じ元手を取り合うから、 スコープ・時間・コストは同時には立てられない スコープ 時間 コスト 1つを動かせば、他が動く 品質を加えて示すこともある トレードオフは、資源が有限であることの帰結。 同じ人の時間、同じ日程、同じ機材という有限の元手を取り合うから生じる 代表例が三重制約(スコープ・時間・コスト)。 1つを動かせば他が動く。品質を加えて4軸で示すこともある 製造業では QCD (品質・コスト・納期)という考え方がよく使われる。 Week 8|プロジェクトマネジメント 1
1.5 トレードオフの正体
1.5 トレードオフの正体 トレードオフは見え方で、実際の構造は依存関係 トレードオフとしての見え方 やりたいこと A やりたいこと B 両立できないように見える その中身は 実際の依存関係 やりたいこと A やりたいこと B 同じリソース 依存関係があるから競合してトレードオフが生まれる トレードオフを判断するために、まずその仕組となる依存関係を知る。 依存関係を解きほぐし、まず最適解を考え、どうしても両立できないものはトレードオフを考える。 Week 8|プロジェクトマネジメント 1
1.6 削る前に問うこと
1.6 削る前に問うこと まず依存を解き、次にリスクに備え、それでも足りないときに選ぶ ① 依存関係を解きほぐす 待ちをなくし、同じ人数と日数で進む量を増やす 2章 ② リスクに備える 見積もりの外れと前提の崩れから、手戻りと停止を減らす 3章 ③ 最後に選ぶ 何を諾めて何を守るか、結局目的は何か、 その基準はサクセスクライテリア。 Week 6 ①②で最適解を探し、それでも両立しないものだけを③で判断する Week 8|プロジェクトマネジメント 1
1.7 選ぶときの基準
1.7 選ぶときの基準 動かせるのはスコープだけ ── その軸は Week 6 の3段階で刻んである コスト=主に人/4人で固定 機材は運営が支給 時間=合宿の日程で固定 動かせるのはスコープだけ EXTRA 追従・連続運用 移動する目標への追従など、フルの上の発展目標。定義は各チーム FULL 制御+撮影+画像送信 姿勢を制御して対象を撮影し、画像を送る(要求の達成) MINIMUM 姿勢推定+テレメトリ 地上から状態が見える=全運用の最低条件 上位の段は、下位を包含する。 フルはミニマムを含む。地上から状態が見えることが、あらゆる運用の最低条件(Week 6) 削る順序も、この入れ子が持つ。 遅れたら外側の段から諦め、範囲を内側へ絞る(デスコープ。型は Week 6 のまま) Week 8|プロジェクトマネジメント 1
1.8 参考:PMBOK の全体像と今日の通り道
1.8 参考:PMBOK の全体像と今日の通り道 7つのドメインは並行して走り続け、本回はその中を順番に通っていく PMBOK 第8版の7つのパフォーマンス・ドメイン / 並行して走り続ける ガバナンス 扱わない スコープ 正面から扱う スケジュール 正面から扱う ファイナンス 扱わない ステークホルダー 扱わない 資源 割り当てだけ リスク 正面から扱う 割り当ての判断は②へ統合 ① スコープ ② スケジュール ③ リスク 横=並行して管理し続けるドメイン、重ねた①②③=本回で決めていく順番。独自の分類は立てず、標準の区分の上に通り道を描いている Week 8|プロジェクトマネジメント 1
1.9 この章のまとめ
1.9 この章のまとめ ここは覚えて次へ:判断・有限の資源・トレードオフの正体 ① 実際の活動=判断に根拠を持たせ、前に進め続けること。 元手のプロジェクト資源(人・時間・予算)は有限で、判断は配る先+配り方の両方。 ② トレードオフの正体は、依存の構造にある。 ほぐせば消える対立と、外から固定されて残る本物の制約を見分ける。 ③ 削るのは最後の手段。 まず依存を解き、次にリスクに備え、それでも足りないときに削る。 Week 8|プロジェクトマネジメント 1
2. 依存
2 依存 今日の中心。まず依存を読み、そのうえで2つの手でほどく。 前半 依存を読む 線で描き、最長経路を読み、何からやるかを決める 後半 依存をほどく2つの手 内部事情を切り離す・輪を切る
2.1 密結合の3つの難しさ
2.1 密結合の3つの難しさ 密結合の難しさは、数・内部事情・堂々巡りの3つが重なっている 姿勢制御 通信 電源 カメラ 地上局 ① 絡む相手が多い。 サブシステムの数だけ依存の相手がいる 姿勢制御 自分の担当 センサ読み取り 換算・フィルタ の実装 入出力の合意 (表層) 実装の中身まで ② 内部事情まで絡む。 例:姿勢角を返す関数の入出力で済むはずが、換算・フィルタの実装まで待ってしまう 地上局 衛星 形式待ち 確認待ち ③ 依存が堂々巡りする。 互いに相手の完成を待つ循環ができ、両方が止まる Week 8|プロジェクトマネジメント 1
2.2 堂々巡り(循環依存)
2.2 堂々巡り(循環依存) 地上局と衛星は、互いに相手の完成を待って両方止まる 地上局 受信・可視化・コマンド送信 「テレメトリ形式が決まらないと書けない」 完成待ち 完成待ち 「地上局がないと、送れているか確かめられない」 衛星 テレメトリ送信・コマンド処理 互いの完成を待ち、両方が止まる。誰も怠けていないのに、何も進まない。 Week 8|プロジェクトマネジメント 1
2.3 待ちが資源を捨てる
2.3 待ちが資源を捨てる 待ちは、人的資源を消費しながら何も生まない Aさん Bさん Cさん 待ち(何も生まない) 待っている間も、Cさんの時間は消費され続ける。作業の失敗と違い、やり直しても何も残らない 待ちは有限の資源を最も大きく捨てる。 作業の失敗はやり直せば成果が残るが、待ちは時間だけが消える 4人では、1人の詰まりが全体を止める。 小さいチームほど、依存の1本が計画全体の首を絞める マネジメントの本質は、タスクの依存関係をほどくことにある Week 8|プロジェクトマネジメント 1
2.4 順番と完了時期
2.4 順番と完了時期 同じ作業量でも、順番だけで完了が45分変わる カレーライスとサラダを作る。工程はどちらも同じで、着手の順番だけを変える。 段取り① 米を研いで炊飯を始め、待つ間にカレーとサラダを作る 60 分で完成 段取り② カレーを作り終えてから、米を研ぐ 105 分で完成 作業量は1分も変わらない。着手の順番だけが、完了時期を決めている Week 8|プロジェクトマネジメント 1
2.5 依存を読む(カレーライスの食卓)
2.5 依存を読む(PERT 図とクリティカルパス) クリティカルパスは、手数最多のカレーではなく炊飯を含むご飯の鎖 米を研ぐ 5分 炊飯 50分(待ち) 野菜と肉を切る 10分 炒める 5分 煮込む 20分(待ち) ルーを入れて煮る 10分 洗って切る 10分 盛り付け 5分 配膳 5分 / 全品に依存 クリティカルパス:ご飯の鎖 55分 + 配膳 5分 = 60分 余裕あり:カレー 45分、サラダ 15分(約40分の余裕) 炊飯・煮込みは人手を拘束しない待ち。そこへサラダを差し込める PERT 図 依存関係を矢印で置いた図。実務ではこの呼び名で通じる クリティカルパス 線をたどった最長経路。合計時間が全体の完了時期を決める 余裕 経路の外なら遅れても、全体は遅れない幅 Week 8|プロジェクトマネジメント 1
2.6 ガントチャートとの対比
2.6 ガントチャートとの対比 同じ食卓の計画でも、ガントチャートには依存の線が引かれない ガントチャートで描く ご飯 カレー サラダ 配膳 55分 45分 15分 0 20分 40分 60分 完成 いつ何をするかと進捗は見える。矢印がないので、炊飯が完了時期を決めていることは読めない。 PERT 図で描く 米 5 炊飯 50 切る 10 炒め 5 煮込 20 ルー 10 洗切 10 盛り 5 配膳 5 クリティカルパス 60分 依存の線と最長経路が見える。時間軸は持たないので、着手の時刻は別に決める。 全タスクがテレコマの完成に依存する自分たちの計画では、依存を描けない図は計画の最大の敵を映せない。 Week 8|プロジェクトマネジメント 1
2.7 参考:PDM・CPM と本来の PERT
2.7 参考:PDM・CPM と本来の PERT 標準体系の呼び名は PDM と CPM、三点見積もりを載せた派生が本来の PERT PDM プレシデンス・ダイアグラム法。依存関係を四角と矢印で描く図法。実務の「PERT 図」の多くはこれ CPM クリティカルパス法。依存図から最長経路を求める手法 本来の PERT Program Evaluation and Review Technique。依存図に三点見積もり(楽観・最頻・悲観)を載せた派生(3章で触れる) ふだんの呼び名は 「PERT 図」 でよい。呼び名の違いで詰まる必要はない。 PDM で描いた依存図 実務の「PERT 図」の多くはこれ + 三点見積もり 楽観・最頻・悲観(3章で触れる) = 本来の PERT Week 8|プロジェクトマネジメント 1
2.8 参考:ノードの書き分け
2.8 参考:ノードの書き分け ノードは作業で統一し、合流点だけをマイルストーンにする タスクノードは動詞句で書く。 所要時間と担当をノードに載せる。粒度は「1人が半日」。矢印は「前が終わらないと始められない」だけを表す マイルストーンは合流点だけ。 状態の名詞句、所要時間ゼロ。「カレー完成」「配膳の直前」のような数個のゲートに閉じ込める 2つの流儀を混ぜない。 ノードを作業、矢印を順序にする流儀が AON(Activity on Node。2.7 の PDM がこの方式で、本デッキも AON)。矢印を作業、ノードを状態にする流儀が AOA(Activity on Arrow)。1枚の図の中で混在させない タスク(動詞句・時間と担当) ルーを入れて煮る 10分 / Bさん サラダを盛り付ける 5分 / Cさん 全品そろった 0分 / 合流点 マイルストーン(状態・所要ゼロ) 迷ったときの判定 時間と担当が置ける → タスク / 「〜が動いている」という条件文になる → マイルストーン 各タスクに完了条件(何が観測できたら終わりか)を書けば、その条件がそのまま状態になる Week 8|プロジェクトマネジメント 1
2.9 参考:ほかのスケジュール管理の手法
2.9 参考:ほかのスケジュール管理の手法 スケジュール管理の道具は他にもある ─ 使いどころが違う ガントチャート タスクを時間軸上のバーで並べる図 ○ 大人数・長期の進捗共有に強い △ 依存関係が主役ではない。少人数・短期間では得るものが少ない WBS Work Breakdown Structure。成果物・作業を階層的に分解して網羅する図 ○ 抜け漏れの点検に強く、PERT 図のノードを書き出す下ごしらえになる △ 一度で分解し切るのは難しい。粗く始めて更新し続ける マイルストーンチャート 節目(マイルストーン)だけを時間軸に打つ図 ○ 長期日程が一目で共有できる △ 途中の作業量や依存は見えない。少人数・短期間では得るものが少ない カンバン 「未着手・作業中・完了」の列でタスク札を動かす板 ○ いま誰が何をしているかが見える △ 完了時期の見通しは示さない Week 8|プロジェクトマネジメント 1
2.10 何からやるか
2.10 何からやるか 数十のタスクを4人で回すとき、どれから手を付けるか? 難しそうなものから 重いものを先に片づけておく 得意なものから 手が動くところから進める 締め切りが近いものから 期日の順に並べて消化する 作業量は同じでも、順番で完了時期は変わる。では、何を根拠に順番を決めるか。 Week 8|プロジェクトマネジメント 1
2.11 優先度の3つの型
2.11 優先度の3つの型 「何からやるか」は、クリティカルパス・リスクの高さ・依存の根元で決める ① クリティカルパス上を優先する 経路上の1日の遅れは、全体の1日の遅れになる。経路の外には余裕がある ② リスクの高いものを先に潰す 外れが早く分かれば、作り直す時間が残っている。終盤の発覚には打つ手がない ③ 依存の根元を先に固める 根元が動くと、下流の作業がまとめて作り直しになる。テレコマの形式がこの位置 3つとも、依存の構造とリスクから順番の根拠を取っている。難しさや得意さは、順番の根拠にならない。 Week 8|プロジェクトマネジメント 1
2.12 ほどく2つの手
2.12 ほどく2つの手 読めた依存を、2つの手でほどく 手① 内部事情を切り離す インターフェースを先に決め、境界で作業を分割する 手② 輪を切る 堂々巡りの1つを仮に決め打ちして、輪を切る Week 8|プロジェクトマネジメント 1
2.13 手① 内部事情を切り離す
2.13 手① 内部事情を切り離す コードを書く前にインターフェースを定義し、境界で作業を分割する 衛星側の実装 内側は自由に作り、差し替えられる 合意したインターフェース 依存を、内部事情から表層の合意へ縮める 地上局側の実装 合意だけを見て、独立に進む パケットフォーマットの合意に最低限含めるもの (行の中身は例。何を載せるかはチームの設計判断) 項目名 型とサイズ 単位 送信周期 attitude_angle int16(2 byte) 0.01 deg 1 Hz …(項目ごとに1行ずつ、チームで合意する) Week 7 の「呼ぶ側を変えずに中身を差し替えられる」を、コードの層からチームの層へ持ち上げた操作。契約まで固めることは、要求と制約を人にもAIにも渡せる形にする作業でもある。 一度決めて終わりではない。 合意は必ず変わる。定義の正本をどこに置き、変えたときにどう周知して切り替えるかを、あらかじめチームで決める(置き場所と手順の中身は各チームの設計判断) Week 8|プロジェクトマネジメント 1
2.14 手② 輪を切る
2.14 手② 輪を切る 輪の中の1つを仮に決め打ちすれば、両側が同時に動き出す 堂々巡りのまま 地上局 衛星 形式が決まらない 届いているか確かめられない 互いに相手が決まるのを待って、両方が止まる いったん決め打ち 輪が切れる 地上局 衛星 形式を仮に決め打ち 仮に決めた形式を前提に、両側が同時に動き出す 決め打ちだと明示する 決めた中身と一緒に「これは仮」であることを共有する 決め直す時期を決める いつ、何が分かった時点で見直すかを、決め打ちと同時に置く 外しても戻しやすい側を選ぶ 崩れたときに影響が小さいところで切る 決め打ちを動かす道具が、ダミーデータとモック(Week 7)。 実物ができたら差し替える。あわせて、依存の向きは一方向に揃え、最小の経路を先に1本通してから太らせる。 Week 8|プロジェクトマネジメント 1
2.15 Conway の法則
2.15 Conway の法則 担当を分けた線が、そのままシステムの分かれ目になる Aさん 地上局の担当 Bさん フライトソフトの担当 Cさん 姿勢制御の担当 地上局 受信・可視化・コマンド フライトソフト テレメトリ・コマンド処理 姿勢制御モジュール 推定・制御 上:チームの分担 下:できあがるシステム構造 分担の境界 = モジュールの境界 = インターフェース システムを設計する組織は、その組織のコミュニケーション構造を写した構造の設計を生む(Conway, 1968)。 Week 8|プロジェクトマネジメント 1
2.16 逆コンウェイ
2.16 逆コンウェイ 誰に割り当てるかと、どこで依存を切るかは、1つの判断である 逆コンウェイ:分担を先に設計する。 望むアーキテクチャに合わせて、先に担当の分け方を決める 手①と同じ操作である。 インターフェースを先に決めて境界で分割することと、分担を決めることは、同じ1つの判断の両面 分担の見直しは、設計変更でもある。 担当を組み替えるときは、切り直されるインターフェースも一緒に見直す 地上局 フライトソフト 姿勢制御 逆コンウェイ:望む構造に合わせて分担を決める Aさん Bさん Cさん 上:望むシステム構造 下:そこから導く分担(2.15 の逆向き) Week 8|プロジェクトマネジメント 1
2.17 この章のまとめ
2.17 この章のまとめ ここは覚えて次へ:依存を読む道具と、ほどく2つの手 ① 待ちが資源を最も大きく捨てる。 マネジメントの本質はタスクの依存関係をほどくこと。 ② クリティカルパスが完了時期を決める。 「何からやるか」は、経路上・リスクの高さ・依存の根元で決める。 ③ ほどく手は2つ。 切り離し(インターフェース)・輪を切る(決め打ち)。可視化(PERT 図)は、ほどく前に依存を読む道具。 ④ 分担の線がシステムの分かれ目になる。 割り当てと、どこで依存を切るかは1つの判断。 Week 8|プロジェクトマネジメント 1
3. リスクに備える
3 リスクに備える 依存をほどいても、見積もりは外れる。手戻りと停止に先に手を打ち、残量を見張る。
3.1 不確実性とリスク
3.1 不確実性とリスク 不確実性のうち名指しできるものがリスク、名指しできない残りには使い道を決めない資源で備える 不確実性(上位の語) リスク=名指しできるもの 洗い出して評価し、対応を作れる事象 残り=名指しできない外れ → 使い道を決めない資源で備える 名指しできたリスクには、対応を作る。 避ける・減らす・移す・受け入れるの4つから選ぶ 名指しできない残りには、使い道を決めない資源を残す。 洗い出しは尽きず、名指しできたリスクの見積もりそのものも外れる Week 8|プロジェクトマネジメント 1
3.2 リスクマネジメントの3段階
3.2 リスクマネジメントの3段階 リスクは、洗い出して、起こりやすさと影響で評価して、対応を決める 段階1 洗い出す 何が起きたら計画が止まるかを挙げる 段階2 評価する 起こりやすさと影響の大きさで見る 段階3 対応を決める 4つの型から選ぶ(次のスライド) Week 6 で技術的な壊れ方(故障モード)に当てたこの形を、 計画・スケジュール・資源 へ当てる。例は、電池が想定より持たない、部品が壊れる、メンバーが1日離脱する。 Week 8|プロジェクトマネジメント 1
3.3 対応の4つの型
3.3 対応の4つの型 対応の型は、避ける・減らす・移す・受け入れるの4つ ① 避ける そのやり方を採らない。間に合わない見込みの部品を使わない設計に変える ② 減らす 起こりやすさか影響を小さくする。最小の経路を先に1本通しておく ③ 移す 負う先を変える。実務では保険や外注、合宿では運営が用意する予備機材 ④ 受け入れる 起きたら対処すると決め、備えだけ置く。マージンがこれに当たる 備えないという判断も、根拠を言えるなら判断である。 起こりやすさも影響も小さいものに資源を割くほうが、配り方としては下手になる。 Week 8|プロジェクトマネジメント 1
3.4 マージン
3.4 マージン プロジェクト資源の一部は、使い道を決めずに残す ── これがマージン 割り当て済みの資源(使い道が決まっている) マージン 使い道が決まっていないことが機能。どんな外れ方にも充てられる スケジュール予備 見積もりの外れに備えて、予定を詰め切らず時間を残す リソースバジェットの余裕 電力・通信・メモリの収支に余裕を明示的に載せる。ぴったりの収支は少しの外れで破綻する マージンは怠慢ではなく、有限の資源の配分に関する意思決定である。 Week 8|プロジェクトマネジメント 1
3.5 参考:三点見積もり
3.5 参考:三点見積もり 楽観・最頻・悲観の3点で、見積もりを幅として扱う 楽観値 15 分 うまくいけば 最頻値 20 分 たいてい 悲観値 30 分 火の通りが悪ければ カレーの煮込み(2.5 の例)を1点の20分ではなく、15〜30分の幅で扱う。この3点を PERT 図に載せた派生が、本来の PERT(2.7)。 Week 8|プロジェクトマネジメント 1
3.6 計画の窓
3.6 計画の窓 計画の窓は、マージンの残量とクリティカルパスの進み具合 運用の窓(Week 6) 運用中、衛星の中は覗けない。テレメトリだけが観測の窓。 計画の窓(今日) 計画のズレは、マージンの残量とクリティカルパス上の進み具合に現れる。 マージンを使い切って遅れたら、何を削るかは デスコープの階段(Week 6) が持っている。残量の観測は、その判断を起動する材料。 Week 8|プロジェクトマネジメント 1
3.7 スナップショット
3.7 スナップショット 計画を更新する前に、前の版をスナップショットとして残す 当初計画 作業期間で描いた PERT 図 更新の前に記録 ホワイトボードなら、更新前に写真を1枚撮るだけでよい 更新後の計画 合宿では必ず更新される 当初計画と実績の差が、Day 5 の素材になる。 どこが外れ、そのときどう決め直したか。差分が残っていなければ、時間の使い方の意図を語れない Week 8|プロジェクトマネジメント 1
3.8 決め直しの輪
3.8 決め直しの輪 残量を見て決め直したら、また依存とリスクの取りこぼしへ戻る ① 取りこぼしを潰す 依存をほどく(2章)、リスクに手を打つ(3章前半) ② 使い道を決めない資源を残す マージンを置く(3.4) ③ 残量と進み具合を見張る マージンの残量と、クリティカルパス上の進み(3.6) ④ ズレたら決め直す 足りなければスコープを削る(デスコープの型は Week 6) 1.6「削る前に問うこと」へ戻る この輪が回り続けることが、1.2 で置いた定義「あらゆる領域の判断に根拠を持たせ、プロジェクトを前に進め続けること」の中身である。 Week 8|プロジェクトマネジメント 1
3.9 計画の立て方
3.9 計画の立て方 直前の輪をどれだけ粗く回すかを決めることが、計画の立て方そのものである 予測型 全体を先に計画し、その計画を基準に進める。全体像が比較的よく見えている場合に向く。 適応型(アジャイル) 粗く計画し、短い反復の中で学びながら頻繁に決め直す。やってみて初めて分かることが多い場合に向く。 ハイブリッド 対象や部分によって、予測型と適応型を組み合わせる。 どれを採るかは、全体像がどれだけ見えているかで決まる 設計判断 。本ゼミでは適応型を中心に、固定された日程や合流点には予測型の考え方も使う。どの部分を固定し、どの部分を反復するかも設計判断で、ダブルダイヤモンドを繰り返す形(4.2)と同じ向き。 1周目 2周目 3周目 start さらに次へ 設計 開発 試験 運用 適応型の一周(Week 6 の図の再掲):設計→開発→試験→運用を小さく一周し、周ごとに育てる Week 8|プロジェクトマネジメント 1
3.10 この章のまとめ
3.10 この章のまとめ ここは覚えて次へ:名指しできるリスクへの手と、名指しできない残りへの備え ① 名指しできるリスクは、洗い出して評価して対応を決める。 対応の型は、避ける・減らす・移す・受け入れるの4つ。 ② 名指しできない残りには、使い道を決めない資源を残す。 これがマージン。使い道が決まっていないことが機能。 ③ マージンは、残量を見張って初めて機能する。 計画の窓はマージンの残量とクリティカルパス上の進み具合。更新前の計画はスナップショットとして残す。 ④ 決め直したら、また取りこぼしを潰す段へ戻る。 この輪が回り続けることが「前に進め続ける」の中身。 Week 8|プロジェクトマネジメント 1
まとめ
まとめ 今日の核:判断に根拠を持たせ、順番を守って、前に進め続ける ① 判断に根拠を持たせ、前に進め続ける。 元手のプロジェクト資源(人・時間・予算)は有限で、判断は配る先+配り方。 ② トレードオフの正体は、依存の構造にある。 ほぐせば消える対立と、外から固定されて残る本物の制約を見分ける。 ③ 削る前に、取りこぼしを潰す。 依存は PERT 図で読み、インターフェースとダミーの2つの手でほどく。 ④ リスクは名指しして対応を作り、残りはマージンで備える。 残量を見張り、更新前の計画はスナップショットとして残して決め直す。決め直したら取りこぼしへ戻り、この輪が回り続けることが「前に進め続ける」の中身。 Week 8|プロジェクトマネジメント 1
宿題
宿題 Week 6 からの通し課題を、「どう進めるか」の観点で考え直す 通し課題(Week 6 から) 模擬衛星の初回打ち上げに必要な機能を考える 第3稿:今日が足す観点 お題は Week 6 と同じで、 今日はどう進めるか(依存と計画) Week 6 SE|初回に必要な機能は何か → Week 7 SWE|どう作り、どこで検証するか → Week 8 PM|どう進めるか(依存と計画) 何からやるか 依存とクリティカルパスから、作る順序を決める どこで依存を切るか インターフェースを先に決める位置を選ぶ どこにマージンを置くか 外れる前提で、置き場所を決める 完了条件:作る順序・依存を切る位置・マージンの置き場所を、それぞれ何を根拠に決めたかを言えること。 実装は課さない。提出は作業期間の最初のチーム作業の前で、各自の案を持ち寄る。所要は60分を目安に Week 8|プロジェクトマネジメント 1
4. 持っていく道具
4 参考:共通講義のまとめ 宿題や今後の作業期間で必要なスタンス
4.1 AIとの協働モデル
4.1 AIとの協働モデル AIとの協働は、検問ではなく共同のエンジニアリングである × 検問 AIの出力(高速・大量) 人間が1件ずつ審査 量で破綻する 見逃し 「毎回チェック」は量で破綻し、「全部信じる」は判断の明け渡し。審査の根拠は設計されていない。 ○ 共同のエンジニアリング AI+人間で回す 問い 発散 収束 根拠ある 結論 広げるのも、確かめるのも、AIに任せてよい 人間が要求と契約(テスト・インターフェース)を固め、内側を委任する。人間の役割は「広げたか、何で確かめたか」を説明できること。 Week 8|プロジェクトマネジメント 1
4.2 ダブルダイヤモンド
4.2 ダブルダイヤモンド 開発は、発散と収束を2回繰り返す形で進む 選択肢・情報量の多さ 思考プロセスの進行 → 課題の 洗い出し 課題の 絞り込み 解決策の 洗い出し 解決策の 絞り込み 課題 問題の定義 決定 課題の探求 解決策の探求 発散=選択肢を広げる 収束=根拠を持って絞る この形を1周で終えず繰り返す。作業期間の計画づくりが、このループの設計をAIと対等に分担する最初の実践になる。 Week 8|プロジェクトマネジメント 1
付録 出典
付録 出典 参考文献と図版の出所 Project Management Institute(PMI)『PMBOK(Project Management Body of Knowledge)ガイド』第8版 ── プロジェクトマネジメントの定義、パフォーマンス・ドメイン、三重制約、PDM・CPM・三点見積もりの用語 Melvin E. Conway, “How Do Committees Invent?”, Datamation, 1968 ── Conway の法則(2.15) Matthew Skelton, Manuel Pais, “Team Topologies”, IT Revolution Press, 2019 ── チームタイプとインタラクションモード(2.15 の台本で名前のみ紹介) Design Council, “Framework for Innovation”(ダブルダイヤモンド、4.2)── 本ゼミでの位置づけの正典はゼミ設計資料 concepts.md 図版はすべて本資料内で作図(デジタル庁ダッシュボードデザイン実践ガイドブック準拠のデザインシステムを使用)。写真・ネット取得画像は使用していない Week 8|プロジェクトマネジメント 1